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スペシャル対談 第1回 アンデルセンを蘇らせた立役者

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アンデルセン生誕200年記念特集
アンデルセン生誕200年記念特集 スペシャル対談
生誕200年記念アンデルセン絵本シリーズ13作品を名訳で蘇らせた角野栄子さん、『えんどうまめの上のおひめさま』の絵を描いた西巻茅子さん、アジア地域において生誕200年の様々な記念事業を推進している、アンデルセン生誕200年アジア事務局長の穂積保さん。お三方による対談を2回連載でお届けします。
第1回 アンデルセンを蘇らせた立役者
---アンデルセンは、70歳でその生涯を終えるまで、150編以上もの童話を書いたといわれています。生誕200年記念出版『アンデルセンの絵本シリーズ』は13作品ありますが、13作品の選定について教えてください。

穂積 保さん(以下、穂積):企画立案当初から、アンデルセン生誕200年にふさわしいお話というのが前提で、「12冊プラス1冊」というラインナップのイメージがありました。中には悲惨すぎるもの、やはり絵本にするのは難しいものなどもありましたが、ほぼ原案どおりに13作品を絵本化することができてホッとしています。 作家と画家の選定については、当初から文章は角野栄子さん、絵はお話に合わせてすべて違う画家さんに描いていただくつもりでした。実際に13冊できあがってみると、非常に素晴らしいキャスティングだったと満足しております。

---新たな感覚で読むことができる、素晴らしい絵本のラインナップですね。
翻訳をされた角野さん、絵を描かれた西巻さんは、実際にアンデルセンの絵本と向き合ってみたご感想は?

角野栄子さん(以下、角野):今回の13冊は、アンデルセンの作品としては代表的なお話がずいぶんありますね。アンデルセンの童話は翻訳本がたくさん出版されていますから、読み手がそれぞれにお話のイメージをお持ちなので、とても難しかったのが率直な感想です。
それから、西巻さんを目の前にしてとても言いにくいのですが、『絵のない絵本』という作品があるくらい、文字のなかに「絵」を込めてお話が構成されているんです。元々の文章を読むと絵がなくてもいいかなと思うくらいちゃんと目に浮かぶように描かれている。だから、絵は絵描きさんにお任せして、一つの物語としてきちんと伝わるような構成にしたいと思いました。

西巻茅子さん(以下、西巻):角野さんのおっしゃるとおりで、私は絵描きとして、情景が浮かぶ優れた文章だと実感いたしましたね。

絵のない絵本
角野:大変だったでしょうね、わかります。言葉には音がありますから、黙読してもその音を自分の耳で聞いてるんですよね。それで響きとか、リズムとか、考えて書いたつもりです。自分で読んでも、読んでもらっても心地よい文章にしようと意識しながら。一つ一つの作品を、何度も声に出して読みましたし、声に出して読んでは修正するの繰り返しでした。
そのように繰り返し読んでいるうちに、アンデルセンはすごい作家だとあらためて思いましたね。悲惨なお話も多いのですけど、理屈っぽくなく、言葉で絵を作って、それを一枚一枚重ねるようにして物語を構成していく作家なんですよね。

穂積:僕が角野さんにお願いしたいと思ったのはその部分ですよ。そもそもこの企画のテーマは「現代によみがえるアンデルセン」。よみがえるということは、文章を読むだけでいろんなイメージが出てくる文章、それを声に出して読み、耳で聞いて、心地よい文章なんです。だから、角野さんにお願いしたかった。角野さんが声に出して何度も読んだとお聞きして、「やっぱりそうだったのか」と思いましたよ。

西巻:考えれば考えるほど、アンデルセンのお話は、文章だけで完成されていることに気づかされてね、絵があってもなくてもいいんじゃないという気持ちになってしまったのも本音です。

---絵描きさん泣かせなんですね、アンデルセンは。

西巻:本当にそうよ。私はアンデルセンのお話を読んでも、漠然としたイメージを持っていただけで、深く読み込んではいなかったの。しかも、アンデルセンのお話は絵本になりにくいことを聞いていた。だから、今回このお仕事をいただいて、いざ絵を描こうとしても、文章に絵をつけることが本当に難しくて・・・。これは19世紀のヨーロッパのお話で、アンデルセンの想いがものすごく入っているから、当時の時代考証をしながら19世紀の絵描きになったつもりで絵を描くなんてとてもできないと思ったの。考え抜いて「じゃあ、どこまでできるだろうか」という気持ちで臨みましたよ。あまりにも描くことが大変だったから、当分読みたくないわ(笑)。

---お二人から「難しかった」という言葉がありましたが、角野さん、西巻さんの共著でもある『えんどうまめの上のおひめさま』で特に難しかったことはありますか?

えんどうまめの上のおひめさま

西巻:『えんどうまえの上のおひめさま』はね、短編でかわいらしいお話なんだけれど、ものすごく観念的。「一番美しいものはいったいなにか」という、アンデルセン自身の哲学や美学が表現されているから、それを絵に描くことは難しかったですね。

角野:文章はアンデルセンが書いた原文そのままではなく、原文を英語に翻訳されたもの、また、日本語にされたものを何度も読んで、そこからイメージした絵を、今度は私の言葉で表現するようにしました。

西巻:角野さんから文章をいただいて、どういうふうに絵をつければ、一つのお話としてすっと流れるようにできるかが一番問題だったわ。いざ、画用紙を16枚並べてここに「なにを描いたらいいのかしら?」と、とにかく悩んでね。悩んだ結果、かわいいお姫様がひとり浮かんで、16枚の画用紙にその雰囲気だけを描くしかないと思ったの。『えんどうまめの上のおひめさま』の絵を描き終えてみて、一生のうちに、なにかすごいことをやってしまったとつくづく思いましたよ。


角野:まあ、すごいお仕事になったのね。

---『えんどうまめの上のおひめさま』には、「ほんとうの ほんとうの おひめさま」というフレーズが出てきます。このお話の中のお姫様像はありますか?

西巻:子供の頃にお姫様の絵を描いたことあるでしょう? 私は、その感覚で描いたの。髪の毛が長くて金髪で、スカートがパアッと広がっていてかわいい顔してるっていう西洋のお姫様のイメージかな。具体的にどんどん作りこんだら、アンデルセンが考えるお姫様像とは違っちゃうような気がして。

角野:でもね、アンデルセンが生きていた時代には、本当のお姫様が実在したのよ。誰もが認める本当のお姫様が。そのような時代の中でアンデルセンは「ほんとうの ほんとうの おひめさま」を書きたっかのでしょうね。

西巻:そういえば、デンマークは今でも王妃いるものね。

角野:デンマークの王妃は自転車に乗って街を駆け抜けていくとか。

穂積:現代の王妃はそうなんです(笑)。でも、当時のデンマークは全く違っていましたよ。彼自身が生きた時代は、日本でいうと幕末から明治の初期ですから、本当に大変な時代だった。

角野:ものすごく貧富の差が激しかったようです。彼が生まれる前年のオーデンセ市の貧困情況調査資料が残っているんですけど、それを読むと目を覆うばかりの貧困と書かれているんです。最下層ではなかったにしろ、貧しい階級にアンデルセンはいたわけですからね。アンデルセンは、本当のお姫様を求めてたんだと思いますよ。今はとても豊かなデンマークにもそういう時代があったのですね。
写真:(左)角野さん(中央)穂積さん(右)西巻さん
第2回 わたしにとってのアンデルセンはこちらから
プロフィール
■角野 栄子
東京都生まれ。早稲田大学卒業。1970年ころより絵本、童話の創作をはじめる。『わたしのママはしずかさん』『ズボン船長さんの話』『かいじゅうトゲトゲ』『魔女の宅急便』など、たのしい作品を発表。 産経児童出版文化賞大賞、野間児童文芸賞、小学館文学賞、路傍の石文学賞などを受賞。絵本の翻訳に『あおいふうせん』『ブルーナのおはなし文庫』などがある。

■西巻 茅子
東京都生まれ。東京芸術大学工芸科卒業後、絵本を描きはじめる。サンケイ児童出版文化賞、講談社出版文化賞絵本賞を受賞。明るい色彩にあふれた画風で数々のすぐれた絵本を作り出している。絵本に『わたしのワンピース』『えのすきなねこさん』『はけたよはけたよ』など。

■穂積 保(アンデルセン生誕200年アジア事務局長
札幌市生まれ。早稲田大学大学院修了。出版社勤務後、1997年メディアリンクス・ジャパンを設立、代表に就任。東京理科大学大学院教授を兼務。
アンデルセン生誕200年記念出版「アンデルセンの絵本シリーズ」は、小学館より発売中です。
写真提供:Odense Bys Museer
 
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