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スペシャル対談 第2回 わたしにとってのアンデルセン

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アンデルセン生誕200年記念特集
アンデルセン生誕200年記念特集 スペシャル対談
生誕200年記念アンデルセン絵本シリーズ13作品を名訳で蘇らせた角野栄子さん、『えんどうまめの上のおひめさま』の絵を描いた西巻茅子さん、アジア地域において生誕200年の様々な記念事業を推進している、アンデルセン生誕200年アジア事務局長の穂積保さん。お三方による対談を2回連載でお届けします。
第2回 わたしにとってのアンデルセン
---アンデルセンの絵本を読んでいくと、アンデルセンという人やデンマークという国にも興味がわいてきます。みなさんにとってのアンデルセン、そしてデンマークという国についての想いをお聞かせください。

角野栄子さん(以下、角野):私はデンマークには4回くらい行きました。個人的には特別大好きな国ではないのですが、国民のことを大切に考えている、きちんとした政治が行われている国だと感じました。

西巻茅子さん(以下、西巻):当たり前だけど、お城が本当にあるのよね。私たちからすればお城って夢物語で、具体的にイメージしようとしても、絵や写真を見るかしかないじゃない。でも、デンマークの人たちは、歴史に残るお城が身近に存在しているから、そこは私たちにはない感覚だと思ったわ。お城にお姫様が住んで、どんな生活をしているんだろうと空想することは容易いし、童話も生まれやすいなぁと。

角野:私たちが考えるお城は、たぶん観光的なものだけど、彼らが考えるお城は全く別もの。生活の中にあるんですよね。そういう環境で育った人は、お城を自然と描けるんでしょう。

西巻:だからアンデルセンも、お城を見て王子様とお姫様のお話をいつも考えて、子供たちに話してやってたということだわね。子供たちもそのお城のイメージを心の中に浮かび上がらせることができるというわけで。そういう時代のおじさんと子供の中から生まれたお話があるわけだろうし。

イーダちゃんの花 角野:そうそう、アンデルセンはあの当時「へんなおじさん」と言われていたようですね。
『イーダちゃんの花』の冒頭にも、それらしい青年が出てきますけど・・・。

穂積 保さん(以下、穂積):「旅することは、生きること」という名言を残していますが、旅好きとしても有名ですよ。

西巻:あの頃、芸術家は皆、旅したんじゃないの?

穂積:アンデルセンは特別の特別ですよ。あの時代に、29回も外国旅行をしていますから。当時は、外国旅行をするということはとても大変なことでね。基本的には馬車の旅でしょ、移動するには今の数倍の時間も労力もかかるんです。追いはぎが出るかもしれないし、大変なこと、危険なことがいっぱいあるわけで。何を求めてはるばるトルコだ、ギリシャだと行ったのか。アフリカ大陸までも行っているようです。

角野:アフリカにも行っているの? すごいですね。

穂積:ドイツ・イタリアも好きで、何回も訪れていたようです。当時の状況を考えると、あんなにも旅行に行くというのは、よほど好奇心が強かったんでしょう。なおかつ経済的なバックアップがないと旅行はできませんからね。まあ、生涯自分の家を持たなかったこともありますが、居候をしていたともいわれています。

---「ヘンなおじさん」という所以を垣間見たような気もしますが。

角野:いろんな人の館にも泊まり歩いていたのです。グリムにも会っているんですよ。アポをとらずに突然会いに行ったから、初対面で「知らない」ってグリムに断わられたりしてね。

穂積:グリムは、北ドイツのカッセルに住んでいたんです。アンデルセンはグリムのところに、押しかけたんですよ。

角野:アンデルセンの自伝を読むとわかりますが、会いに行った人の名前を連ねています。ハイネ、リスト、ディケンズでしょう。有名人が好きだったようですね。

---アンデルセンは、ミーハーということでしょうか?

穂積:現代だったらそう形容されるかもしれませんが、時代背景が違いますから。やはり彼自身が貧しい階級の出身で、ごくストレートな上昇志向の表れだと思います。
自分自身が有名になってもなぜかさみしくて、満たされなかった。へんくつとか変わり者だと言われたりしてね。本当にそうだったかわかりませんが、アンデルセンの心にはどうにも埋められないなにかがあったんでしょう。

角野:穂積さんがおっしゃるように、不安を抱えていた人だったと思います。その反面自信過剰なところもあって、自分が受け入れられるのは、当然みたいに思っていたところがあります。だからディケンズの家には、すごく長く居たりするわけ。

穂積:ディケンズは、「早く帰ってくれないかな」と思っていたようです。そういうところ、ちょっと無神経ですね。でも、背伸びしていたのかもしれません。だいたい、作家自身で、自伝を何回も書く人ってあんまりいない。若い頃から、将来自分は自伝を読んでもらう人間になると、かたく信じて自伝を書いちゃったんですから(笑)。これだけでも相当変わった人ですが、後から書き直すというのもかなりおかしいですよ。でも、そういうところが人間的な魅力のある、きわめてわかりやすい人だな。しかも、自伝のなかに好き勝手なこと書いてね。

角野:作品が受け入れられなかったらドーンと落ち込んで、ちょっとでも評価されると天下をとったように喜ぶ。本当におもしろみのある人だと思います。

---自伝を読むと、アンデルセンについて深まりますね。絵本の読み方も変わるような気がします。他にも、アンデルセンのとっておき話はありますか?

穂積:この人は職人じゃないんですが、とにかく多才な人でした。当時、詩人や作家は、自分の作品を上流階級のサロンに呼ばれて朗読するという習慣があって、朗読もしていたようです。だからアンデルセンの作品は、声に出して読んで、たどたどしくつっかかるような文章はない。やっぱり素晴らしい文章なんですよ。

西巻:一人芝居をして渡り歩いているようなものでしょ。それによって好評を博して。

角野:切り絵をしながらね。最初コペンハーゲンに出て行くのは、歌手になるためだったんだけど、すぐ変声期に入ってだめになってしまって、それならばと踊りをやろうとしたんですよね。

穂積:多才だけど困難な道を歩んでいた。僕は、アンデルセンを作家として大変認めていますが、まず他の作家とどこが違うかというと、例えばアンデルセンは、童話だけで150編以上書いてますよね。いくつかのお話のベースが似ていたとしても、そのお話のテーマ、時代背景やプロット、シチュエーションというものは基本的に全部違うんです。一人の人間があれだけの多才なオリジナリティを発揮できるというのは、本当に稀有な例。あの人のイマジネーションの豊かさは、絵がなくてもイメージが伝わるような表現に集約されていますよ。しかも、アンデルセン自身は絵もうまかったんです。

---切り絵や絵がうまいというお話が出ましたが、アンデルセンと切り絵の関係とは?

角野:実際に見ましたが、切り絵はすごいですよね。

穂積:そうなんです。切り絵を作るにも、裁縫でつかう裁ちばさみのようなものを使うわけですよ。はさみの持ち手(指を入れるところと刀の部分)がずいぶん離れているような。

西巻:曲木で作ったような揺り椅子とかも切り絵にしてる。はさみで立体的に切ってあるのよ。あれ、どうやって作ったんだろう?

穂積:作り方、聞きました。本人からじゃないですけど(笑)。左右シンメトリーじゃない作品は、一度切った紙を広げて、別のパーツに入れて作るそうです。身長185センチの大きな男性が、どうしてこんな器用なものを作れるんだろうと不思議なくらい。まあ、それも生い立ちが影響しているんでしょう。欲しいと言っても買ってもらえる環境にはいませんでしたから。なんでも自分で作ったんでしょうね。

---みなさんの好きなアンデルセン童話を1つ教えてください。

角野:私は『火うちばこ』が好き。物語としての展開が好きなんだけれど、なにが起こるかわからない面白さがあるから。

穂積:いいですよね、『火うちばこ』。ダイナミックなアドベンチャーストーリーで、アンデルセンの中では、珍しくアップダウンのあるものです。僕もこれが一番かな。ちなみに、生誕200年記念出版の『火うちばこ』の絵は、デンマーク出身のエリック・ブレグバッドさんという方が描いているんです。大きな目玉の犬の背中に乗った表紙は、インパクトがありますよ。

西巻:あの絵を描くのは難しいわね。
火うちばこ
私は『火うちばこ』って好きじゃない(笑)。『モミの木』が好きなんです。今回の13作品にはないんですけど、アンデルセンらしくて、おもしろいなと思いましたよ。早く大きくなりたいと思うモミの木は、伐採されていく木たちに憧れるの。ずっと憧れ続けてたんだけど、クリスマスに飾りつけをしてくれると思ったら、裏切られて屋根裏部屋で枯れちゃう。モミの木はアンデルセンそのものだなと思った気がするのね。

角野:私が『火うちばこ』が好きなのは、オチがいいから。納得がいくの。アンデルセンのお話は「こんな終わり方しないでよ」っていうのが時々あるでしょ。その時代の考え方もあったのでしょうけど、でも、そこがまたアンデルセンらしい。

穂積:まあ、そういった理不尽さや不条理さがまたいいんですけど。

西巻:これが19世紀的といえば19世紀的だわね。

はだかの王さま ---角野さんがおっしゃるように、人それぞれのとらえ方でアンデルセンは楽しめるお話を創作していたのですね。最後になりましたが、読者の皆さんにアンデルセンの絵本の楽しみ方について、なにかアドバイスはありますでしょうか。

角野:アンデルセンは、いろんなことで自己表現をし続けた人だと思います。だから今回のようにフルカラーで絵本になったことを知ったら、「ほぉ」って案外、喜んでくださるのではないでしょうか。アンデルセンも「こう読んでくださいよ」と決め付けていない。自由に楽しんで読んでいいと思います。
どういう読み方をするかは、読み手次第でしょう。ただ私としては、耳に心地よい文章にしようと思って作ったつもりです。心地よさを楽しんでほしいですね。

西巻:アンデルセンのお話を読むと、ハラハラドキドキの生涯だったに違いないって思えるの。そういう本だから、私たちが今読んでもよいものだし、子供が読んでもおもしろい。いつでも真剣勝負だったのが伺えます。 1つのお話だけど、本当にいろんな読み方があるでしょうから、気に入った1冊を何度も読むのもいいんじゃないかしら。お話の終わり方で読み方の種類も増えるだろうし。

穂積:アンデルセンのお話は、性別、年齢、地域によっても好みはあります。ヨーロッパで有名なアンデルセンの作品が、日本では全く知られていないものも結構ありますから。余談ですが、アジアの中では、日本が一番最初にアンデルセンの作品を紹介した国なんです。その作品が現在の『はだかの王さま』。当時は『王様の新衣装』というタイトルで日本で紹介されました。
読むときの気分によって注目する場面が違うのも、アンデルセンのお話の幅の広さだと思います。生誕200年をきっかけに、ぜひアンデルセンの魅力に触れてほしいというのが私の願いです。

---本日は、お忙しいところありがとうございました。
写真:(左)角野さん(中央)穂積さん(右)西巻さん
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プロフィール
■角野 栄子
東京都生まれ。早稲田大学卒業。1970年ころより絵本、童話の創作をはじめる。『わたしのママはしずかさん』『ズボン船長さんの話』『かいじゅうトゲトゲ』『魔女の宅急便』など、たのしい作品を発表。 産経児童出版文化賞大賞、野間児童文芸賞、小学館文学賞、路傍の石文学賞などを受賞。絵本の翻訳に『あおいふうせん』『ブルーナのおはなし文庫』などがある。

■西巻 茅子
東京都生まれ。東京芸術大学工芸科卒業後、絵本を描きはじめる。サンケイ児童出版文化賞、講談社出版文化賞絵本賞を受賞。明るい色彩にあふれた画風で数々のすぐれた絵本を作り出している。絵本に『わたしのワンピース』『えのすきなねこさん』『はけたよはけたよ』など。

■穂積 保(アンデルセン生誕200年アジア事務局長
札幌市生まれ。早稲田大学大学院修了。出版社勤務後、1997年メディアリンクス・ジャパンを設立、代表に就任。東京理科大学大学院教授を兼務。
アンデルセン生誕200年記念出版「アンデルセンの絵本シリーズ」は、小学館より発売中です。
写真提供:Odense Bys Museer
 
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